なんとなく雨の日が好き

出会い

共通点は一つだけ

Shota & Rina

入籍

Tokyo, JP

湿った頁(ページ)と琥珀色の沈黙

僕らが繋がったのは、完璧な計算式の結果というよりは、むしろ不完全な偶然の重なりだった。

アプリの画面に浮かんだ「雨の日の読書が好き」という一行。それは暗闇の中で焚かれたマッチの火のように、静かに、しかし抗いがたく僕の意識を捉えた。

 

初めて会った日、世界は深く湿った霧雨に沈んでいた。駅前の古いジャズ・バー。スピーカーからはベン・ウェブスターの、あの湿り気を帯びた吐息のようなサックスが流れていた。

彼女はカウンターの端に座り、ページをめくる指先は驚くほど白く、細かった。

 

僕らはタリスカーのロックを注文した。グラスの中で氷が触れ合う硬質な音は、雨の日の沈黙をより深く、そして密やかなものに変えた。

隣り合って座る僕らのあいだには、わずか十五センチほどの空間があった。けれど、その空白には、目に見えない熱が充満していた。

雨に濡れた彼女のコートから立ち上る微かなウールの匂いと、雨の気配。

 

「雨の日って」と彼女はウィスキーの琥珀色を透かしながら言った。「皮膚の感覚が、いつもよりずっと鋭利になる気がしない?」

 

彼女の瞳は、深い森の奥にある湖のように静まり返っていた。僕は何も言わず、彼女の耳にかかった湿った髪のひと房を見つめた。

言葉を交わすよりも、その沈黙を共有することの方が、よほど官能的な行為に思えた。

 

外に出ると、雨はさらに粘り気を増していた。一つの傘の下、僕らの肩は必然的に触れ合った。

濡れたブラウスが彼女の柔らかな曲線を暴き出し、僕の腕に伝わる体温は、冷たい雨粒とは対照的に、驚くほど生々しく、熱かった。

理由なんてなかった。ただ、互いの重力を確かめるように歩くことが必要だった。

 

「どこかへ行こうか」と僕は言った。

「ええ、どこかへ」と彼女は応えた。その声は僕の耳元で、甘く、かすれた振動となって残った。

 

僕らは無言のまま、導かれるようにホテルの重いドアを押し開けた。ロビーにはビル・エヴァンスのピアノが、まるで薄いレースのカーテンのように静かに揺れていた。

彼女は濡れた髪をかき上げ、僕をまっすぐに見つめた。その視線は、僕の心の奥にある、自分でも気づかなかった秘密の引き出しを一つずつ丁寧に開けていくようだった。

 

「あの一行がなかったら」と彼女が囁く。

「僕らは今も、別々の場所で、乾いた雨を眺めていただろうね」

 

僕は彼女の腰に手を添えた。手のひらから伝わる彼女の鼓動は、まるで複雑なジャズの即興演奏のように、僕の理性を静かに狂わせていった。

外ではまだ雨が降り続いている。けれど、この空間に満ちる湿り気は、もう雨のせいではなかった。

 

僕らは、まだ誰も読んでいない物語の、最も美しく、そして深淵な一ページを、ゆっくりと、しかし確実に捲り始めていた。

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